リソゾーム病

2017-03-10

リソゾーム病


遺伝病チームは、リソソーム病と呼ばれる遺伝性難病の病態解明と診断及び治療法の開発を目指した研究を行っています。リソソーム病は、細胞内小器官であるリソソームに存在する水解酵素の量や機能が低下することで本来分解されるべき基質が分解されずにリソソーム内に蓄積し、様々な障害を引き起こす疾患群の総称です。

現在までに、ヒトでは30種類以上の疾患が知られており、国の特定疾患(難病)に指定されています。多くの研究により、リソソーム病の原因遺伝子が特定されましたが、未だその病態の発生や進行に不明な点が多く、根本的治療法が確立されていないものが殆どです。我々が研究対象としているリソソーム病は、主にファブリー病とポンペ病です。

主な分類

糖原病II型 - 糖原(グリコーゲン)が蓄積するタイプ
o ポンペ病 (Pompe disease) - 糖原病II 型。α-グルコシダーゼ (酸性マルターゼ) 欠損症
スフィンゴリピドーシス - スフィンゴリピドが蓄積するタイプ
o GM1ガングリオシドーシス (GM1 gangliosidoses)
o GM2ガングリオシドーシス (GM2 gangliosidoses)
o 異染性白質ジストロフィー (MLD)
o ファブリー病 (Fabry's disease) - α-ガラクトシダーゼA欠損
o ファーバー病 (Farber disease)
o ゴーシェ病 (Gaucher's disease) - β-グルコセレブロシダーゼ欠損
o ニーマン・ピック病 (Niemann-Pick disease) (A, B, C型)
o クラッペ病 (Krabbe disease)
ムコ多糖症 (Mucopolysaccharidosis) - ムコ多糖が蓄積するタイプ
糖蛋白代謝異常症タイプ
o ムコリピドーシス - ムコ多糖症類似の病状を示すがムコ多糖を認めない
分類不明 (調査中)
o マルチプルサルファターゼ欠損症 (Multiple Sufatase欠損症) (MSD)
o シアリドーシス
o ガラクトシアリドーシス
o アイセル病 (I-cell disease) - ムコリピドーシスIII型
o α-マンノーシドーシス
o β-マンノーシドーシス
o フコシドーシス (Fucosidosis)
o アスパルチルグルコサミン尿症
o シンドラー病 (Schindler病) / 神崎病
o ウォルマン病 (Wolman disease)
o ダノン病 (Danon disease)
o 遊離シアル酸蓄積症
o セロイドリポフスチノーシス



リソソーム病の具体的なイメージがつかめる様に、その一例としてポンペ(Pompe)病の臨床像を示します。この病気は、リソソーム酵素のひとつであるα-グルコシダーゼの活性低下によって起こります。この酵素は、リソソーム内で、グリコーゲン(ブ ドウ糖がつながった物質でエネルギー源として働きます)を分解する機能を持っています。しかし、ポンペ病では、この酵素の働きが失われるため、全身の臓器 にグリコーゲンが蓄積します。典型的なポンペ病(乳児型)の患者さんでは、心臓、骨格筋や肝臓などにグリコーゲンが蓄積して、心不全、筋力低下や肝臓の腫 大を来たします。図1は、乳児型ポンペ病の患者さんの胸部レントゲン像で、心臓陰影の拡大がみられます。図2は腹部のCT像で、著しい肝臓の腫大 所見が認められます。

図2腹部CT
(臨床研、身近な医学研究情報より)


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リソソーム病の診断

2017-03-10

リソソーム病の診断


リソソーム病を診断する方法に関して紹介します。臨床症状や一般検査の結果、リソソーム病が疑われる場合、病理検査、生化学的検査、酵素検査や遺伝子検査などが行われます。実際には、考えられる病気の種類や患者さんの状態を考慮して、これらの検査のうち、適切なものを選んで行い、必要があれば複数の検査を組み合わせて診断を確定していきます。


図1. I-cell病患者さんの皮膚組織の電子顕微鏡像


病理検査では、障害がある臓器組織(肝、腎、心臓、末梢神経や皮膚など)を、ほんの僅かだけ針やパンチなどで採取します。そして、これらの組織を光学顕微 鏡や電子顕微鏡で調べて、細胞内のリソソームに異常があるのか、あるとすればどんな形の異常なのかを判定します。ここでは、I- cell病という病気を例として説明します。この病気は、細胞内で、多くのリソソーム酵素が正しくリソソームに輸送されずに細胞外に漏れてしまうことによって起こります。そのため、発育不全、精神運動発達の遅れ、顔貌や骨の異常などの症状が出現します。この病気を疑われる患者さんの皮膚を電子顕微鏡で観察した所、細胞(cell) 内に多数の特徴的な空胞(封入体、Inclusion bodyと呼ばれ、I-cell病の名前の元になりました)が認められました(図1)。

 生化学的検査では、いろいろな組織、血液や尿試料を用いて、異常物質の同定や定量が行われます。例えば、I-cell病では、病因となる異常によって、二次的に細胞内のシアリダーゼという酵素の活性が低下します。この酵素が働かなくなることで、分解できなかったシアル化オリゴ糖という物質が尿中に排泄されます。そこで、尿の分析結果が診断の参考になります。

 リソソーム病の診断法で非常に重要なものが酵素検査です。これは、病気の責任酵素の働きを直接調べる方法です。多くの場合、血液や皮膚などを試料として採 取し、その試料から血漿、白血球や培養線維芽細胞とよばれるものを分離調整して、酵素の活性を測定します。I-cell病の患者さんでは、多くのリソソー ム酵素が細胞外に漏出するため、血漿中のリソソーム酵素活性が高い値を示します。先の患者さんでは、これらの酵素活性が、基準値の5-10倍の値を示した ことから、I-cell病と確定診断されました。
最近では、分子遺伝学の進歩により、多くのリソソーム病において、原因となる遺伝子の解析がされるようになりつつあります。そこで、他の検査で診断がつかない場合などで、遺伝子診断が行われることがあります。

(臨床研、身近な医学研究情報より)


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リソゾーム病の病態解析と治療法開発

2017-03-10

リソゾーム病の病態解析と治療法開発


ファブリー病の原因遺伝子は、α-ガラクトシダーゼ(GLA)であり、その活性低下によって生じます。最近、遺伝子工学を利用して作製した酵素薬をファブリー病患者に投与する「酵素補充療法」が導入され、その治療効果が証明されています。しかし、多くの問題点が明らかになり、それらを改善した新規治療薬の開発が患者側と医療側から強く求められています。現行の治療薬における主な問題点は、1)患者の体内で欠損している酵素を薬として繰り返し投与するため、酵素に対する抗体を生じて、高い確率でアレルギー反応を起こします。2)体内で作られた酵素薬に対する抗体は、酵素薬の取り込みを阻害し、治療効果を低下させる場合があります。3)酵素薬は、血液中で不安定であり、標的臓器である腎臓や心臓に取り込みが低いため、十分な改善効果が認められない場合があります。

これらの問題点を克服する目的で、我々は、構造生物学的視点からGLAに構造が類似しているが、基質特異性と免疫原生の異なるα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(NAGA)に着目し、NAGAの分子内部の活性部位を構成するアミノ酸を僅か2残基換えることにより、GAL活性を有することが予想される改変NAGAを分子設計(図1)しました。


図1

この改変NAGAをチャイニーズハムスター卵巣由来の細胞株で発現させたところ、予想通り、本来NAGAが持っていないGLA活性を獲得たことが判明しました。この改変NAGAは、酸性及び中性緩衝液や血漿中でGALよりも安定であり、GLAよりも腎臓や心臓への取り込みが良く(図2)、更に、臓器に蓄積した基質であるグロボトリアシルセラミドを分解し、病理学的変化の改善を認めました。加えて、ファブリー病患者の皆さんは、もともと体内にNAGAを持っているので、改変NAGAはアレルギー反応を起こす危険性は少ないと予想され、新規ファブリー病治療薬として有望であること期待されます。

図2


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参考文献&その他のリンク

2017-03-10

参考文献&その他のリンク


参考文献

Y. Tajima .et. al., Use of a modified α-N-acetylgalactosaminidase in the development of enzyme replacement therapy for Fabry disease. Am. J. Hum. Genet., 85, 569-580, 2009 Featured Article

その他のリンク

  1. 特定疾患情報 - 難病情報センターの情報
  2. ジェンザイム・ライソゾーム・サービス - ジェンザイム社によるライソゾーム病に関する情報
  3. ムコ多糖症支援ネットワーク - 「ムコ多糖症」の患者支援者のボランティア・ネットワーク
  4. クラッベ病患者とその家族の会のホームページ- 「クラッベ病」の患者と家族の会
  5. ライソゾーム病ーWikipedia
  6. 難病情報センター



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